「ユースチャンピオンシップ連覇中」「今年度インターハイチャンピオン」「アジア大会日本代表選手」今年の実績だけ聞けば、河崎羽珠愛は、すでに日本のトップ選手だ。だから、全日本選手権での優勝も驚きではない、はずだが正直、この結果にはビックリしてしまった。そして、それは本人にとっても同じだったようだ。1日目を首位で折り返した河崎は、2日目最初の種目リボンでつまづく。おなじみの「道」の曲にのって、リボンが力をもって美しく動き始めた直後、なんでもないところで落下。その後、リボンに結びめができてしまい、その処理に手間どり、散々な出来になってしまう。ジャンプなどの難度は、いちだんとキレもよかったし、基本的にはリボンの操作もうまい選手なだけに残念な演技だった。「ジャパン初優勝」の可能性も、これで消えてしまった、と本人も覚悟したのではないかと思う。ところが。「リボンのことは忘れて、すぐにクラブに気持ちを集中した。アジア大会のときに、うまくいかなかったことを引きずってしまったので、その経験がいきたと思う。」と試合後に本人も語ったが、最終種目となるクラブでの河崎は、リボンの演技後にがっくりと肩をおとしていた河崎とは別人だった。ことによっては、リボンでミスしたことによって「優勝」がちらつかなくなって、力が抜けた。そんな面もあったのかもしれない。リスキーな手具操作も、リズムよくあぶなげなくこなし、今までになく「艶」のある演技だった。得点は、15.250。
1日目に河崎がボールで出した15.100以来の15点台。この得点が、河崎を第50回大会の松永里絵子(当時、桐朋女子高校)以来の「高校生の全日本チャンピオン」に押し上げた。それは、「思ってみなかった結果」だと彼女は言った。試合前には、どのくらいの成績を目標にしていたのか、と聞くと、「あまり順位とかは考えていなくて、自分のいつも通りの演技ができればいいな、と」その無欲さが、勝利に結びついた。ユースチャンピオンシップの連覇も史上初なら、全日本での高校生チャンピオンも16年ぶり。河崎羽珠愛は、いつも飄々と、淡々と歴史を塗り替える。もしかしたら、この選手、みんなが思っている以上に「大物」だ。<撮影:榊原嘉徳>
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