「個人については、結果はあまり気にせず、練習でやってきたことを出したい、と思っています。」高校3年生。最後のインターハイを目前に控えた山口聖士郎に、インターハイの抱負を聞くと、やや拍子抜けするくらい無欲な答えが返ってきた。「1年生のころは、団体だけで精いっぱいな感じで、個人はそんなに練習していませんでした。練習で通しもほとんどやってなくて。」と言う山口だが、1年の秋、新人戦前から個人演技にも意欲的に取り組むようになってきたそうだ。なるほど。そのせいか。山口聖士郎は、ジュニア時代から美しく、目を引く動きをする選手だったが、その存在感をおおいに示したのが、高校2年のユースチャンピオンシップだった。予選ではミスがあり、22位だったが、後半種目では、すばらしい演技を見せ、2種目とも9点台にのせ、15位まで順位を上げた。このときの彼の演技は、それまで「山口聖士郎」の名前を知らなかった人にも、記憶に残るような演技ではなかったかと思う。「高2のユースは、それまでよりも個人の練習をしすぎていて、かえって本番で緊張してしまった感じでした。」と、振り返って本人は苦笑する。しかし、ユース後半種目でのノーミス演技、高い評価はかくじつに自信にはなったようだ。高校3年になった今年のユースでは、4種目ノーミスで通し、個人総合4位。全国大会では自己最高の順位を獲得した。「やっと本番でも、練習での1本と同じような感じでできた、って感じです。」と山口は言うが、今回のユースではミスがなかった、というだけではない。山口聖士郎、ならでは、の演技をしっかりと見せつけた。「今年はスティックの演技を変えて、他の人とは違う“自分にしかできない演技”を目指してやってきました。ユースでは、その結果が出てきたかなという手ごたえがありました。」と自信をのぞかせる。“自分にしかできない演技”とは、どういうところ?と聞いてみた。「体が小さいなりに、大きく動くところや、ちょっとした跳躍の高さや、人と違う間。それから他の人がやっていないタンブリング。」即答だった。山口聖士郎は、自分の強みをしっかり把握している。そして、それを認めさせる力をつけてきた。今の彼の演技から漂う余裕や自信は、「自分をよく知っている」ところからきているのではないだろうか。それでも、団体に話を向けると、彼の話はいちだんと熱を帯びてきた。「今年は18点後半が目標なんです。今のままだとまだそこまでは出る演技ではないですが、残り2週間でまだ0.1~0.3は上げていけると思うので、最後まであきらめず、本番ではノーミスで通して、ジャパンの切符がとりたいです。」個人では、ユースでの好成績で、すでにジャパン出場が決まっている山口。しかし、彼は、高校最後の年に、「みんなで」ジャパンに出たいと、切望している。「体力的にはかなりきついですけど、団体、頑張ります!」最後はやはり、団体の話になってしまったが、インターハイでの団体は2日目。1日目の個人で、自分がいい演技をすることがチームにはなによりの力になることも、彼にはわかっている。山口聖士郎。今年はきっとやってくれるはずだ。<撮影:清水綾子/椎名桂子>※2014年7月20日、28日
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