2013全日本インカレ直前情報② 国士舘大学個人<中>新体操は、スポーツだから、当然「勝敗」がつく。勝てばうれしいし、負ければくやしい。応援しているほうも、それは同じだ。だけど、新体操は「芸術スポーツ」だから、勝ちさえすればいいわけではない。負ければ意味がないわけではない。たとえ、勝利は得られなかったとしても、「この演技を見ることができてよかった」と思える演技は、ある。そういう演技ができることは、「演技者」としては間違いなく「勝ち」であり、見ているも者にしても、そういう演技を見られることこそ、至福なのだ。今の国士舘には、そんな至福を味あわせてくれる選手が何人もいる。しかも、それぞれにまったくタイプが違う。そこが私が彼らに惹かれるゆえんだ。●斉藤剛大入学して以来、ずっと国士舘の「頼れる後輩」と言われてきた。そして、それに応えるだけの演技をし、結果を出してきた。試合会場で見ても、練習を見ても、彼はいつも楽しそうで、新体操ができることが楽しくてたまらないんだな、ということが見ていればわかる。現役選手の中ではトップレベルに難しい手具操作を、これでもか! と詰め込んだ演技構成も、彼が演じれば、勝ちを狙ってというよりも、それが楽しいからやっている、ように見える。そんな斉藤に、インカレの抱負を聞いたときのことだ。「東日本インカレは、勝ちを狙っていきました。インカレも、もちろん、そうなんですが、ちょっと違う。勝ちたい気持ちはあるんですが、狙うというのではなくて・・・いや、今も狙ってないつもりはないですけど、でも、狙いすぎず、今は新体操できていればそれでいいのかな、って。」という歯切れの悪い返答に、こちらが面食らってしまった。少し突っ込んで聞いてみると、東日本から全日本の間、彼には珍しく迷いがあったという。象徴的なのがスティックの演技だ。東のときにやっていた演技から2回変えて、やっと現在の演技に落ち着いたのだという。それによる不安もなくはない。が、実際には、出来上がった演技の通しこみの少なさよりも、迷いがあること、おそらくそれが解消しきれてはいないことによる不安のほうが大きいのではないかと思う。学内の試技会でも、「自分でも記憶にないくらい久々」にミスをした。いつも軽やかに、まるで悩みなんかないかのように、演じるたびにノーミスで通してきた斉藤剛大とは、今、少し違っている。しかし、そんな状況でも、いざ通しになると、やはりいつもの斉藤、だ。目まぐるしい手具操作も、すべて自分の思いとおりにコントロールされ、少々の狂いがあっても、どう対処すればよいか、完璧にプログラミングされているかのような、精度の高い演技。そして、特筆すべきは、欠点だと言われていた、動きや体の線に如実な変化が見られることだ。たしかに、斉藤は、やわらかく動ける選手ではなかった。本人も言っている。「こんなに体のあちこちを動かして踊るなんて、大学に入るまで知らなかった」そんな彼が、大学でそれまではやっていなかったトレーニングを取り入れ、自分とは違うタイプの選手たちの中で刺激を受け、徐々に、そしてここにきて急速に変わってきた。少し前まではぎこちなく見えていた動きが、どんどん自分のものになっていく。彼のチャレンジ精神は、決して手具操作だけでなく、動きや表現の面にも現れている。たとえうまくできなくても、かっこよくなくても、やるべきと思ったことはやる! それが斉藤剛大の強さであり、成長の源なのだ。全日本インカレは、彼にしては珍しく、何か迷いを抱えたまま迎える試合になりそうだ。それでも、彼は言った。「いつもとおりの自分でやりたいです。新体操が楽しい自分でいたいです。楽しくない新体操は自分の新体操ではないので。」大丈夫だ。何を迷っても、どんなに悩んでも、彼は、「自分の新体操」で、道を切り拓く。そして、いつも何かをつかみとる。追い込まれれば追い込まれるほど、その状況を打破するためにも、演技で力を発揮する。斉藤剛大は、そういう選手だ。●小谷笙平
2010年に、私が初めて国士舘の練習に行ったとき、小谷は個人選手ではなかった。もともとは団体のメンバーだったが、大学2年の夏に、周囲からの勧めで個人に転向した。そして、そこからめきめきと力をつけてきた選手だ。彼の魅力はそのオリジナリティー、発想力だ。もともとは、それほど新体操が盛んではない大分県出身。国体があったため、強化を受けてきた代ではあるが、決して恵まれた環境でやってきたわけではない。だが、その分、いろいろなことを「自分で考える力」は育ててもらったと、という。自分の演技構成を自分で考えるのはもちろんのこと、演技会があれば集団演技の創作にも手腕を発揮するし、構成つくりでいきづまっている仲間がいれば、一緒に考えたりもする。おそらくそんなことをすべて楽しめる選手だ。個人選手としてのスタートは遅かったが、そんな小谷は仲間からとても頼りにされているし、愛されている。「自分は、インカレでは、しっかり自分の演技をして、4種目とも練習とおりにやること、それが重要だと思っています。今までの構成では、ノーミスでも9点にのらないものもあったので、ロープは、構成を変えました。これまでに指摘されていた雑さや大きさがないという点も、クリアにしてきたので、今回は9点以上、出せる演技になっていると思います。自分の強みは、練習=本番になれることなので、本番で出し切りたいです。」「練習=本番」なのは、決して度胸がいいとかそういうことではない。それだけいつの練習でも「本番とおり」の気持ちで彼がやっているということだ。いつも全力、いつも一生懸命。そんな彼だから、みんなが応援する。もちろん、私もだ。 <撮影:清水綾子>
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