「行幸啓(ぎょうこうけい)」という言葉、皆さんご存知でしょうか?恥ずかしながら、私は今回初めて知りました。「天皇・皇后がご一緒に外出されること」という意味なのだそうです。今月初め、希望郷いわて国体で審判業務をしてきました。体操競技においては48年ぶり(?)と聞いた気がしますが、大会初日の第1班は天皇・皇后両陛下が観戦される天覧試合となりました。このタイミングで現地観戦された方はご存知ですが、このお二人が来られるのはなかなかの大イベントです。私は曲がりなりにも関係者ですので、主催側から知らせて来る手続きを整斉と行うだけでしたが、観客もかなり早い時期に個人情報を事前申請しなければならないことを大会サイト上で知った時は驚きました。大会当日は会場内に入る際、写真付きの身分証明書と事前申請した内容が突合された上での入場で、観客一人一人にまでADカード着用が義務付けられ、立入禁止区域も設置。国内外のスポーツイベントで私が経験した中では一番厳格な手荷物検査が行われ(ペンケースの中身までチェックされました)、ふたを閉められる飲み物も持ち込み禁止。警察官や警察車両、宮内庁関係者と思われる皆さんが数多くいる、結構な雰囲気だったと言って良いでしょう。そして、お忙しい身なのは理解しているつもりですが、お二人の会場滞在時間は約20分(体操の試合は1つの班が概ね2時間~2時間半前後)。つまり、ちょっとだけ顔を出されたと言っても過言ではありません。天皇・皇后のお二人がお見えになった時は試合進行も一時中断。その前後は観客、関係者共に離席もできません。こうして文字にして書くと、なんて面倒な裏側があるんだと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ただそれでも、天皇・皇后両陛下が見に来て下さるのって本当にありがたいことだと今回感じました。入場と退場の時には体育館中が立って拍手でお出迎えとお見送り。時間にして1分以上ですし腕だって結構疲れます。でも自然と手抜きせずに拍手ができてしまう。私個人は、お二人の一挙手一投足を瞬時でも見逃したくない衝動に駆られて遠くのお二人をガン見し続け、来られた時にも帰られた時にも目がうるうるしました(笑)。もちろんテキトーにやっていた訳では断じてないのですが、「さあしっかり集中して採点しよう!」と身が引き締まる思いでした。ことさら皇室ファンでもない私がなんでこうした感情になるのか考えてみたのですが、結局のところ、天皇・皇后両陛下の人柄や普段の言動ゆえなのだと思っています。入場される時も退場される時も、会場に向かってお二人そろって丁寧にお辞儀をされ、入場から席に着くまで、そして離席して退場されるまで、本当にきめ細やかなまでに時間をかけて周囲に笑顔で手を振って挨拶されていました。威厳やオーラと言うよりは、良い意味での親しみやすさという印象でしょうか。このお二人が日本の天皇と皇后で本当に良かったと感じ、正月の一般参賀に通う人の気持ちが多少なりとも理解できた気がしました。ちなみに行幸啓の件は大会関係者の多くが話題にしていて、宿泊先で朝食時にも、他の競技の皆さんが「その時間は飲み物を持ち込めない」とか、「選手のアップをいつもと変えないといけない」といった話をしているのは何度も聞きました。理屈でだけ考えたらたぶん面倒なことなのだと思います。でも、このお二人が来られることは理屈では説明できない心に響くありがたさがあると言って良いのでしょう。これまでにもスポーツ観戦でいわゆるエライ人(?)が観戦される場は何度も見ていますが、今回は明らかに感覚が違いました。また、行幸啓が迷惑だというような発言を聞くことを多少は想定していましたが、少なくても私は盛岡で聞くことはありませんでした。話変わって国体そのものについて。期間中のとある晩、私は夜やらなければならないこともあり、一人で手短に食事を済ませようと地元の飲み屋さんに入りました。店内ではテレビで地元放送局のニュース番組が流れ、その中で当日の国体のダイジェストや結果などが放送されていました。いや、長かったです(笑)。その日に行われた競技を順に、時間にして30分以上。地方に行く時は好奇心満々に色々アンテナを張っていますが、東京住まいの私にとって、国体開催県が地元大会を盛り上げようとするエネルギーの大きさに驚愕したと言っても良いレベルでした。ちなみに大会テーマソングの「笑顔の賛歌」を歌っていたのは、地元岩手出身の臼澤みさきさん。ジャンルとしては民謡歌手の方のようですが、この曲はJ-POPかイージーリスニングといった類いで、会場のBGMでループして数十回は聴いたにも関わらず全く飽きませんでした。すぐにiTunesでダウンロードしてヘビーローテーションしています(笑)。国民体育大会。近年はその存在価値について様々な意見も聞かれます。競技や種目によって違いはあるかと思いますが、どういった選手が出場するか、競技としてのレベル、強化方法や持ち回り制度の良し悪し、本当に日本最高峰のスポーツの大会なのか、などなど。近代の競技スポーツのワールドスタンダードと比較した時には、ガラパゴス的な面もあろうかと思います。そうした中で、競技の優勝都道府県には天皇・皇后杯が授与され、戦後の日本の復興や、近年の日本のスポーツ発展に貢献してきた国民体育大会。日本の近代スポーツにおける国体の位置づけを再認識させられた貴重な経験だったと感じると共に、今後の日本のスポーツを考える上でもその価値というものをしっかりと認識する必要があるのだと実感し、それゆえに記事としてアップすることにした次第です。最後にホスト県の岩手県の皆様。丁重なおもてなしに心から感謝します。今回の盛岡での5日間は本当に素晴らしい思い出になりました。もりおか三大麺を楽しみに、遠くない将来また訪れようと思います。ありがとうございました!!!
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