Quantcast
Channel: 体操
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1762

女子体操競技に求められる芸術性

$
0
0
明日から体操の全日本種目別選手権が行われます。体操競技においては4年に一度の改正以外にも、その時々の必要性などを考慮してルールの修正が行われ、それに合わせて日本国内でも2月から3月にかけて、新シーズンのルールや解釈などの周知のため、審判員のための研修会や講習会が行われます。3月に私も参加した講習会で印象に残る演技に巡り会いましたので、今回はそれにまつわる話をしたいと思います。まずはユーチューブにもアップされている当該演技の映像をご覧下さい。 Lieke Wevers FX Worlds Nanning 2014 – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=nsZ13tAoK0M Lieke Wevers NED FX Podium Training 2014 Worlds Nanning – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=RcXlSG7sEaQ いかがでしょうか?オランダのLieke WEVERS選手のゆかの演技。アメリカや中国、ロシアやルーマニアなどといった強豪国の選手ではありません。多くのトップ選手が、宙返りを入れたアクロシリーズを、ルールで上限の4つ入れてくるのに対し、WEVERS選手は2つだけという珍しい構成。その分、現ルールで重視されているターンやジャンプを多く取り入れてDスコア(=難度点)を稼ぎ、演技中の振り付けや表現などに趣向を凝らしたものになっています。同じ選手の演技ですが2つめのリンク。ポディウム・トレーニングというのは、審判も参加して大会の採点基準を確認するいわばお披露目練習ですが、映像の奥で手が空いた跳馬の審判が、演技途中から自身のタブレットで撮影を始めるのが印象的です。参考にするため、試合会場で関係者が選手の演技を撮影するのはままある光景ですが、いわゆる「良い演技」のことがほとんどですので、この審判も演技冒頭を見てそう判断したのでしょう。文末のリンク記事でも書いたように、今の女子体操においては、芸術性や表現力というものが、特にゆかで非常に重視されています(同様に平均台も)。10点満点のEスコア(=出来栄え点)において極端に悪い選手の場合、芸術点だけで1.0以上減点されてしまうなんていうこともあり得ます。高難度技が全盛の現代体操ゆえに上記のような規則になっているのでしょうけれど、ルールで最低限必要な芸術面だけなんとかクリアして、それ以外は宙返り技などに労力を費やす傾向はどうしてもあるといって良いでしょう。女子の体操競技のあるべき姿とはどういうものなのか…?芸術性を含んだ「卓越」なるものを、万人が納得するように数値化して序列をつけることが本当に可能なのか…?難しいですね…。選手や指導者、そして審判の皆さんも、日々頭を悩ませていることと思います。ただ、今回一つ言いたかったのが、女子の体操選手たちは、男子がほとんど求められない分野(=芸術性)での労苦を強いられる一方、男子では届こうにも届かないものへの追求をできるのではないかということ。いわゆるキレイな体操で感動を生むことは男子にもできます。ただ、タイプにあった音楽や、自分にしかできない動作や表情、表現などで、観客や審判を自身の「世界観」に引き込むのは、女性の体操選手だからこそできる特権なのではなかろうか…?スポーツにおける観客の反応は競技によって結構色々とタイプがありますが、WEVERS選手の演技に対する、舞台後の余韻に浸っているかのような温かい歓声や喝采を聞くと、私にはそう思えてなりません。今の女子体操における芸術性というのは、言葉で具体的に表現するのはなかなか難しい分野です。ルール関連の書類が男子のざっと倍はあろうかという量にも関わらず、全てが明文化されているはずもなく、ガイドラインなどはだいぶ整備されてきたものの、審判講習会などでも都度多くの質問が寄せられる現状。男の私が他人事で「特権」などと言ってしまうのは軽率とは思いますが、上記の演技を見て私は「これは女性にしかない特権」、「これこそが、今の女子体操に求められる方向性の理想像の一つ」、そのように感じました。ちなみにこの演技は審判講習内の採点練習の一演技でしたが、講師の先生は芸術性の減点なしでした。数字的なものにも少し振れますね。WEVERS選手の演技、昨年の世界選手権ではDスコア5.0、Eスコア8.533、決定点が13.333、種目別ゆかの予選で27位です。WEVERS選手の個人総合順位も250人中44番。ただ、出来栄え点のEスコアだけに注目した場合、ゆかで8.533というのは、予選全体の3位タイ。上位は個人総合優勝したアメリカのBILES選手の8.866、同じく銀メダルのルーマニアIORDACHE選手の8.733しかいません。Eスコアというのは芸術性だけの評価ではありませんが、WEVERS選手の演技が多くの審判に「響いた」、つまり今の女子体操で求められる方向性の大きな一つであることは間違いなさそうです。また、この記事を書く過程で知った、Eスコア8.533で同点の、ベルギーのJulie CROKET選手(個人総合予選38位、ゆか予選14位=D5.3)。2014年の世界選手権の映像は見つけられませんでしたが、その直前の大会のゆかの演技が下記のリンクです。WEVERS選手とは全くテイストが違いますが、お読みの皆様はどのようにお感じでしょうか? 2014 Novara Cup Julie Croket Floor – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=W8J_QFhg7Kc 採点競技における芸術性。長らく日本人が不得手な分野だったと言っても言い過ぎではないことでしょう。ただ、昨今は表現力豊かな選手も増え、女子の体操競技に関して言うなら、主に大学生以上の選手たちの成長は目覚ましいと言っても良いのではないでしょうか。内村航平選手や田中佑典選手、加藤凌平選手など、日本の体操はどうしても世界トップクラスの男子へ目が向きがちですが、リオ、そして東京五輪に向けてダイヤの原石がたくさん出現してきて、今年も熾烈な体表争いが繰り広げられている女子もぜひ注目して頂きたいと思います。今週末の全日本種目別選手権は、今年の世界選手権の代表を決める大会である一方、男女各種目のスペシャリストが競演する舞台です。場所はとってもアクセスの良い、東京原宿の代々木第一体育館。なお、テレビ放送は日本テレビと日テレG+(CS放送)です。追伸:よろしければ下記もご覧下さい。‘14/1/19「2014女子体操ルール変更と芸術性についての雑感」

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1762

Trending Articles