2013インターハイに向かって② 阪口優衣(金蘭会高校)インターハイの女子は、3年生の池ヶ谷晴香と藤岡里沙乃、高難度な演技で、ユースや代表決定戦でも活躍した桑村美里、猪又涼子などが有力かと予想される。そんな中で、3年生にしてインターハイ個人には初出場という選手ながら、私が注目しているのが阪口優衣だ。阪口は、今年の春の選抜大会では4位、ユースでも8位とこのところユース世代では上位の常連になりつつある選手だが、じつはインターハイに個人で出場するのは今年が初めて。昨年は、同じ高校にコン・ユンがいたし、その前の年も同じ高校の同級生に強い選手がいた。金蘭会高校には、すみれRGから進学する選手が多iいが、阪口は中学からの編入組だ。近年、全国でも好成績をおさめることの多いすみれRGのいわば第一次黄金期にあたるのが阪口の世代だ。ジュニア時代から、彼女は同級生や下級生の力のある選手に囲まれて育ってきた。それだけに、団体となれば、結果に恵まれることも多かったが、個人としてはなかなか陽のあたるところにはいなかったのではないかと思う。小6のクラブチャイルドにも、すみれの同級生たちは出場しており、上位に名前があるが、当時はすみれ所属ではなかった阪口の名前はない。中学3年の全日本ジュニアには個人でも出場し、39位になっているが、すみれの同級生たちはもっと上にいた。失礼な言い方かもしれないが、ずっと2番手、3番手の選手だったんだろう、と彼女の経歴を見ると想像できる。能力は決して低いほうではない。パンシェでの開脚度などはすばらしいし、手具操作も多彩で、演技のスピード感もある。今、彼女の演技を見て感じる強みは、思えば以前からもっていた選手だったように思う。ただ、これと言って印象に残らない。そんな平均点の高い優等生、という感じの選手だった。それが、いつからか、「あ、阪口優衣だ」と目に飛び込んでくる演技をするようになった。私にとってそれが如実になったのは、去年のユースチャンピオンシップだった。この年のユースは、阪口と同じ金蘭会高校から全国デビューしたコン・ユンが注目を集め、いきなり優勝してしまった。阪口も決勝に残り、25位と健闘したが、コン・ユン優勝の陰に隠れてしまった感はあった。しかし、このときの彼女の演技は、それまで私が彼女にもっていた印象を一変させるものだった。予選でのリボン、手具キャッチひとつにも表情があり、ただの技に終わらせないように演じていることが感じられた。クラブでは曲によく合ったスリリングな演技で、ラストでの落下場外のため、点数は伸びなかったが、とても印象には残る演技だった。決勝でも、フープは、ドラマチックな曲に負けない濃い演技で、動きが音をよくとらえていた。たしかに。1年前のユースで、この選手の変貌ぶりに私は驚いたのだった。おそらく、急にうまくなったとか、急に意識が変わったわけではない。以前からずっと、「こうありたい」と願い、目指してきたものがやっと形になり、見ている人に伝わるようになってきた、のだろう。そのころから、彼女の演技は、いつも期待を裏切らなくなってきた。もちろん、実施の面ではミスが出てしまうこともあるが、こと表現力という点では、コンスタントに「魅せる演技」をする選手になってきたと思う。今年のユースチャンピオンシップもそうだった。総合8位も立派な成績だが、印象はそれ以上のものがあった。とくに種目別3位になったフープ、9位のリボンなどは、見ている人を引き込む力をもった演技だった。「表現力」が重視されるルールになった今年、より評価が高まりそうな演技をしていたと思う。一言に表現力といっても、いろいろな種類がある。阪口優衣の表現力は、「曲の世界に入り込む」種類の表現力のように私は感じる。もっと、演じる側が主体となって、世界やストーリーを描き出すタイプ(藤岡里沙乃や恒川愛は、こちらのような気がする)もするが、阪口は、その曲の世界に溶け込んでいるような、そんな動きや表情を見せる選手だ。新体操は、人に見てもらうスポーツだし、人が評価するスポーツだから、「見られるのが好き」という資質はあったほうがいい。ただ、阪口の場合は、おそらくそれよりも「踊るのが好き」なタイプじゃないかと思うのだ。見ている人がいてもいなくても、曲の世界の中に入り込んで踊るのが好き。そうやってずっと新体操をやってきたのではないかと。そうじゃなければ、とっくに新体操がいやになっていたんじゃないだろうか。そんな環境に彼女はいたように思うのだ。きっと、踊ることが大好きで、新体操が大好きで、自分がこうありたいという選手像もあって。ただ、おそらく、技術を磨くことやミスしないこと、などを優先しなければ自分の居場所がなくなりそうに思ってしまう時期もある。今よりももっと無機質に見える演技をしていたころの彼女はそうだったのかもしれない。強いチーム、強い時期にあたった子にはそういうことがよくある。それでも、高校3年生まで新体操を続けてきたことで、彼女はきっと「自分のやりたかった新体操」に近づいてきたのだろう。そういう演技ができるようになってきたことが嬉しいんじゃないか。少し自信もついてきたんじゃないか。今の彼女はそんな風に見える。やっと個人で出場できるインターハイ。なかなか手が届かなかった舞台だけに、そこで踊る喜びをかみしめ、演技にも発散することができたなら。インターハイでの阪口優衣の演技は、ますます輝きを増すのではないだろうか。能力や技術だけでは、出せないものがある。阪口は、「それ」を出せる選手になった。「それ」を見せられる選手になった。インターハイでの彼女の演技に、私は期待している。 <撮影:榊原嘉徳>※ジムラブに「選手名鑑(体操競技)」をアップしました。体操、新体操ともに、少しずつ充実させていきたいと思います。http://gymlove.net/gl/players/
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