世界選手権日本代表候補の5人のうち、古井里奈(名古屋女子大学高校)と桑村美里(町田RG)が故障による棄権となったため、3名だけのエントリーとややさびしいコントロールシリーズ第1戦となった。また、昨年11月の全日本選手権以来、久しぶりの試合でもあり、種目によってはミスが出てしまった選手もいた。しかし、たとえミスは出ても、かくじつに良い方向に進化しつつあることは感じられる演技は見られ、まさに伸びざかりの選手たちだと証明してくれたように思う。とくに、最終種目となったリボンは、素晴らしい演技の応酬となった。今回、落下のあったボールこそ13点台にとどまったが、ボール以外の3種目で15点台をマークし、著しい進境を見せた立澤孝菜(イオン)のリボンは、昨シーズンと同じ作品だったと思うが、これは本当に彼女の個性によく合っている。今回のコントロールでの、立澤選手は、難度、手具操作ともに安定感が増しており、演技に余裕が生まれていた。そのため、表現もよりよく伝わってくるものがあり、とくにこのリボンでは、ボーカル曲を使用して、会場の空気を変えてみせた。明らかに観客が惹きこまれていた、圧倒的な美しさと世界観のある演技だった。途中で、後方転回しながらの後手でスティックをキャッチするところで惜しい落下があったと思うが、それでも15点台にのせてきたところに、この選手の「伸び」が感じられた。リボンもすばらしかったが、クラブでも今までにない「強さ」を見せた作品で、気力充実! のノーミス演技。自信がついたのか、野心が芽生えたのか? この選手の内に秘めた芯の強さが表面に現れた演技だった。少数精鋭による戦いとなった今年の世界選手権代表争いの台風の目になるかもしれない。今回の立澤選手の演技は、そう予感させるものだった。今回のコントロールでは、4種目とも、同じクラブの後輩にあたる立澤選手が素晴らしい演技を見せた直後が、現全日本チャンピオン・河崎羽珠愛(イオン)の演技だった。1種目目のフープは、昨シーズンから引き続きのラフマニノフの「鐘」で、貫録すら感じさせるノーミス演技。全日本で優勝したときは、まだ「本当に私でいいの?」というような初々しさのあった河崎選手だが、すでにチャンピオンとしての自覚がしっかり芽生えているのだな、と感じられる演技だった。しかし、続くボールとクラブでは演技序盤でイージーミスとも言える落下があり、やや得点が伸び悩む。それでも、ミス以外の部分では、昨年以上に大きさのある迫力ある演技を見せた。そして、最終種目のリボンは、昨シーズンの「道」からがらりと雰囲気を変えた新作。作品が完成したのは12月とのことだが、大きなミスもなくまとめ、今までにはない「羽珠愛ワールド」を描いてみせた。独特な曲、振りだが、河崎選手の野性味がよく生かされた作品で、この選手の魅力を引き出していた。表現力にはあまり自信がないと言っていた河崎選手だが、昨シーズンにそこがぐっと伸びたと感じたが、今年はさらに磨きがかかってきた。もちろん、まだまだ改善の余地はあるに違いないが、それは「のびしろ」ということもできる。現時点ですでに、「よくここまできたな」と思える選手に彼女はなった。そして、まだ天井は見えない。今回のコントロールでの猪又涼子(伊那西高校)は、前半種目で苦しんだ。1種目目のフープは、新作で大きなミスはなく演じてはいたが、こなれ方はもう一歩。さらにラストで落下が出てしまう。さらに2種目目のボールでは、落下ミスを連発。しかし、そのままで終わらないのが今のこの選手の強さだ。3種目目のクラブで、前半種目のミスを吹っ切るような明るくエネルギッシュな演技を見せる。わずかな休憩時間でのこの切り替えは、素晴らしかった。そして、ラストのリボン。猪又選手のはまり演技とも言える「黒鳥」を、よどみなく踊りきった。華やかな笑顔もよかったが、その笑顔の裏の「負けない」気持ちが伝わってくる演技だった。3選手とも、反省点は残る第1戦だったとは思う。しかし、次の第2戦(3月7日に実施)、そして、4月19日に行われる代表決定戦が楽しみだと思える第1戦での演技だった。1年前、1年後の立澤選手がこんな強さを身につけているとは想像できなかった。2年前、2年後の河崎選手が、こんなにも自分の世界を描いて見せる選手になるとは思えなかった。伸び盛り。彼女たちはまさにそこにいる。<撮影:赤坂直人>
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