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Channel: 体操
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第33回世界選手権/第17回アジア競技会日本代表「三上真穂(東京女子体育大学)」

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2014年5月31日~6月1日の2日間にわたり、ユースチャンピオンシップの後に開催された「第33回世界新体操選手権大会/第17回アジア競技会日本代表決定競技会」は、コントロールシリーズをトップで通過した山口留奈選手(イオン)が、靭帯損傷のため欠場となったため、最終種目まで代表の行方がわからないという熾烈な戦いとなった。その激戦を制して、自身初の世界選手権代表の座を手にしたのは三上真穂選手(東京女子体育大学)だった。勝負のかかった2日目、1種目目のボールでは、「絶対に失敗できないと思っていたら、リスクが不安定になったり、片手で取るところが両手になったりしてしまった」と、本人からも反省の弁が出る悔いの残る演技になってしまった。それでも、慎重になりすぎただけあって、落下などの大きなミスにはならず、15.300と持ちこたえる。しかし、同じボールで5番目に登場した河崎羽珠愛選手(イオン)が、ボールで会心の演技を披露し、15.750のハイスコアを出し、3種目目まで終わった時点で、河崎がトップに立つというエキサイティングな展開となった。決定競技会での試技順が1番だった三上は、最終種目のクラブも最初に演技を行うことになる。初日に首位だったことは知っていたそうだが、ボールの得点は知らなかったという三上。もちろん、河崎に逆転されていることも知らなかったそうだが、ボールで自分の納得のいく演技ができなかったことで、クラブは、「やるしかない!」という気持ちになっていた。その強い思いが、気負いにならずにすんだのは、フロアに出ていく前の秋山エリカコーチの言葉のおかげだ、と三上は言う。「代表とか結果とか関係ない。今まであなたがやってきたことをすべて見てもらおう。これは演技会だよ。」秋山コーチはそう声をかけた。同時に三上に大きな力を与えたのが、観客席に陣取った東京女子体育大学の仲間たちからの大声援だった。「先生の言葉と、応援の力で、最後のクラブは緊張していたけど、まとめられました。絶対にできる! という気持ちでフロアに入っていけました。」三上のクラブは、これでもか! というような攻めの演技で、得点15.700。クラブではミスの出た河崎を、突き放した。決定競技会を終えてから、代表に決まったかどうかわかっていなかった、という三上は、付き添っていたマネージャーから「おめでとう」と言われ、やっと自分が代表になったことを知ったという。認定証授与式が終わってからの会見で、新聞記者から「代表に選ばれた感想は?」と聞かれても、「世界選手権に行けるのは、まだ夢みたいで。」と言葉がすぐには出てこなかった。話しているうちにやっと、少しずつ、「イオンカップ以外は、国際大会に出たことがないから不安はありますが、嬉しいです。海外での試合に行くのは初めてなので、ワクワクもしています。」と、表情も和らぎ、目が輝いてきた。世界選手権への抱負を聞かれると、「自分が得意なのはパンシェトゥールやリスクですが、今のままでは世界には通用しないので、世界選手権までにもっと回転数をあげられるようにしたいです。自分の良さは、技の難しさや、ダイナミックさだと思うので、そこは伸ばしていって、世界選手権でもその良さを出して、パーフェクトな演技がしたいと思います。」と前向きながら、しっかりと自分の課題もあげて、回答した。「世界選手権は、夢の舞台という感じだったので、その舞台で自分も戦えるということは、本当に嬉しいし、楽しみです。」大学3年生での初選出は、最近の代表としては遅いほうかもしれない。だからこそ、心から嬉しそうな三上の笑顔に、見ているほうも幸せな気分になった、 1993年8月2日生まれの三上真穂は、ジュニア時代は安達新体操クラブに所属し、団体選手としては全日本ジュニアの常連だった。優勝経験もある。しかし、個人では、案外優勝にもメダルにも縁がなかった。全日本ジュニアの歴代メダリスト(3位以内)には、三上の名前はない。ユースチャンピオンシップの歴代メダリストにもない。それでいて、2008年、中学3年の全中では優勝。前年の19位からジャンプアップしての優勝だった。また、2011年、前年までは同じ千葉県に山口留奈がいたため、出場すらかなわなかった高校総体初出場で優勝。ここ一番でめぐってきたワンチャンスに力を発揮できる、そんな勝負強さをもった選手。それが三上真穂だ。今回の代表選出も、ある意味、三上らしい。最終候補に残った選手たちは、いずれも素晴らしかったが、おそらく、「チャンスをつかみ取る力」が一番強かったのが三上だったのではないだろうか。身長158センチは、とくべつ小さいほうではないが、スーパーモデル体型が当たり前のように求められる昨今の新体操界では、いわゆる「国際規格」とは言えない。そういうコンプレックスにさいなまれたこともあるだろうと思う。しかし、大学に入ってからは、高校時代よりもかなり練習時間が増え、秋山コーチのもとで緊張感をもった練習ができるようになってきた、という。新聞記者から、「とても努力家なんですって?」と話を向けられたとき、「えっ?」と困ったような顔をした三上は、おそらくむらっ気のある選手だと思う。ジュニア時代からずっと見てきていて、気力充実しているときと、そうではないときの差が、練習ぶりは知らなくても如実にわかってしまう選手だった。それでも、「大学での三上はとても努力してきました。周りに努力するのが当たり前、という仲間たちがいるから、その影響も受けて三上も努力できるようになったと思います。世界の人が喜んでくれるような演技をするには、表現も技もまだまだ足りませんが、今回、磨くチャンスをもらえたことをありがたく思います。」と秋山コーチは言う。「スーパーモデルのような体型のほうが有利なのはわかっています。わかっているけど、ないものねだりをしても仕方ないから、私は小さくても、大きく見せるように、ダイナミックに見えるようにしています。」という三上。身長158センチでも、国内で強化対象になっていなくても、自分の力で門をこじあけることができる、ということを示したという点で、今回の三上の代表選出は快挙だ。三上真穂という選手に対する好き嫌いや、所属の利益などを超えて、「代表決定戦で1番の得点を得た選手が、世界選手権に出場できる」ということが、とても清々しいニュースに感じるのは私だけではないだろう。たまにはこんなことがあってもいい。こんなこともあるから新体操はスポーツだし、おもしろいのだ。<撮影:榊原嘉徳>

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