2014テレビ信州杯レポート④ 2年分の本気今年で3回目となった男子キッズ選手権だが、目を見張るほどレベルアップしていると感じた。初回はまったくの手探りで、みんなどの程度やってくるか、どんな演技が評価されるのか、まったく未知数だった。女子のチャイルドのように細かい評価基準は決めないままでのスタートだったので、やってみなきゃわからない、という感じもあったのだ。が、1回目にして、この「男子キッズ競技」は、選手以上に指導者の心をとらえたように思う。それは、このキッズたちの演技が、誰もがわかっていながらも、時におざなりになりがちな「徒手の重要性」を改めて思い出させてくれたからだろう。中学生、高校生と成長していったならば、タンブリングや手具操作のレベルアップや、表現力をつけることも必要だ。しかし、新体操選手としての入り口で一番必要なことは「基礎」にほかならない。男子新体操にとって、それは「徒手」だろう。また、近年は意識が高まりつつある、つま先やひざの伸び、のような脚のラインの美しさなど。これらは、従来は多数派であった中学生や高校生から新体操を始める選手には、なかなか身につけることが難しく、かつ、そこに時間を割くことはできなかった部分でもある。キッズ競技は、男子新体操にとっての「基礎」の大切さを再認識できたという点で大きな役割を果たしていると思う。そして、もう1つ。明らかな成果が出つつある。昨年の全日本ジュニア出場選手の中には、過去2回の男子キッズ選手権出場経験者の名前が数多くあった。その中で、彼らの名前がそこにあることを、とくにうれしく思った2人の選手が今回のテレビ信州杯にも出場していた。●蔵本航輝(中2/田中ジュニア新体操教室)第1回の男子キッズ選手権に、当時小6で出場した彼のことを、私は覚えている。非常に華奢で線の細い選手だった。そして、とてもクラシカルな曲を使って、見た目の印象よりもはるかに「男らしい」体操をしていたのだ。「男子新体操じゃなくて、ダンス新体操?」などと揶揄されることもある昨今の男子新体操の流れとは真逆とも言えるその演技は、私にはとても新鮮に見えた。そして、勝手な想像ではあるが、彼に新体操を教えているのは、とことん「体操」を大事にするタイプの指導者なのだろう、と思っていた。中学生になってからは、彼の名前をテレビ信州杯では見なかった。中学に進学して新体操はやめてしまったのかも、と思っていたら、昨年の全日本ジュニアで見ることができた。それも、見違えるように成長した姿を。まず身長がのび、体つきもがっしりした。今すぐインターハイやインカレにいても見劣りはしない体躯を彼は手に入れていた。そして、小6のときのキッズ演技で見たあの「体操らしい体操」は、いい意味で健在だった。どんな環境で練習しているのか知らないが、手具操作ではまだミスも少なくないところを見ると、練習量が豊富というわけではなさそうだ。動けば粗も見えるのも否めない。だが、ひとたび、ぴたっと止まったときに彼の体が見せる線は、どこまでも硬質で美しい。男子新体操が、今のようにおしゃれでかっこいい振りなんてやっていなかったころでも、この競技にはきっとこういう美しさがあり、その魅力にとりつかれた人達に愛されてきたのだろう、と思える美しさなのだ。これを突きつめていくことは、ジュニア選手にはなかなか難しいのではないかと思う。小中学生ならたいていは、もっと派手なタンブリングやかっこよさげな振り付けなどのほうに惹かれるものではないのか?それでも、彼はこの「体操」をここまで高めてきた。石川県のクラブなので、ライバルも仲間もそう多くはないだろうに。彼の演技は、まだ非常にベーシックで、完成度もまだ高くない。が、この先どんな風にも積み上げていける基礎工事はしっかりとなされているように見える。願わくば、高校でも大学でも新体操を続けて、このすばらしい土台の上にどんな魅力的な作品が建つのかを見せてほしいと思う。●藤綱峻也(中2/東播体操クラブ)2年前の男子キッズ選手権で、彼は、空手の型を入れた振り付けで踊っていた。おそらく空手をやっている子なんだろう、とわかるその型はかっこよかったし、ハンドスプリングなども上手にこなしていたので、体操もやっていた子なのかな、と思った。運動神経のよさそうな有望な子、とは感じたが、おそらく新体操をやっている子ではない、とも感じた。初の男子キッズ選手権を盛り上げるために、東播の指導者がどこかからかき集めてきた子なのかも、という印象だった。ところが、彼は、その1年後のテレビ信州杯には、手具をもってジュニア競技に出場した。それも2種目もだ。そして、その演技は、まだ未熟ではあったが、ちゃんと「新体操」になっていた。6年生の終わりに、おそらく借り出されたような形でキッズ選手権に出たあと、ちゃんと新体操を続けてきてくれたんだ、とわかる演技だった。そして、その年の秋の全日本ジュニアに出場。リングで落下など大きなミスがあり、順位を下げてしまったが、よかった種目では8点台にはのせる演技を見せた彼は、もうすっかり一人前の新体操選手だった。今回のテレビ信州杯でも、2種目に出場。スティックでは、8.450まで点数を伸ばした。彼のよさは、その動きのセンスのよさ、ではないかと思う。音のとり方や、いわゆる見せ方も心得ている。あとはとにかく熟練度をあげることだろう。しかし、それらは練習次第だ。練習では得にくいものをすでに持っているという点で、とても期待できる選手ではないかと思う。おそらく。「男子キッズ選手権」がなければ、新体操をやることにはなっていなかったんじゃないか? そんな子が、こうして2年間本気になって練習して、いっぱしの新体操選手に育っている。そのきっかけを作ったという点でも、男子キッズ選手権の果たした役割は大きいと思う。さらに言えば、この2人には弟がいる。そして、弟も過去2回は男子キッズ選手権に出場していた。が、今年はなんと、2人ともキッズは卒業して、手具をもち、ジュニア個人競技に出場していた。●蔵本将輝(小6/田中ジュニア新体操教室)●藤綱隼都(小5/東播体操クラブ)まだまだ、手具を持てばミスもあったが、まだキッズにも出られる学年でありながら、ジュニア競技のほうに挑戦してきたところに、心意気が感じられた。それだけの練習も積んできたのだろう。とくに、藤綱隼都選手は、過去2回のキッズ選手権でも目につく、ダンサブルな演技を見せていた選手だ。あまりにもダンスそのものなので、得点は押さえられていたが、そのかっこよさは誰もが評価するところだった。それなのに、手具をもってジュニア競技に出場。それも、その演技は、得意のダンス的な動きに頼ることなく、ベーシックな新体操だった。ヘアスタイルや衣装は、2年前にキッズ選手権に出たときの彼と変わらないが、中身はすっかり「新体操選手」になった。兄2人も、弟たちも、この2年間、新体操に夢中になってくれたんだろうと思う。そう思うだけの成長を彼らは見せてくれた。そして、ここまできたのなら、この先も、ぜひさらなる成長を見せてほしいと願わずにはいられない。 <撮影:清水綾子>※ジムラブに「アジアジュニア新体操選手権大会壮行会~テレビ信州杯」をアップしました。http://gymlove.net/rgl/topics/report/2014/01/20/in/
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