大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。昨年もたくさんのアクセス、ならびにコメント、どうもありがとうございました。本年もよろしくお付き合い頂ければ嬉しい限りです。さて、2014年最初のテーマはタイトルの通り、私の古巣の体操競技です。体操に縁がなかった方が観戦し始めた際、単純に「スゴイことやってる!」とか、「綺麗な演技」などといった見方からスタートするのが一般的だと思います。そして関心が高まってくると、次に遭遇する壁がルールでしょうか。曲がりなりにも関係者である立場から見ても、一筋縄では消化し切れない代物だとは思います。しかも4年に一度の改定以外にも、毎年のように微調整がなされる採点規則。今年から適用される女子ルールが先日発表になりましたが、「マジかよ…」みたいな意見が目立つ印象です。I難度が正式に新設されたり、新しい技がルールに加わったり、色々と細かい変更はありますが、私が一番注目したいのは、芸術性を求める方向性がさらに鮮明になった、という点です。体操競技の理想はどういうものなのか…?意見は色々とあることと思います。非常に高難度になっている昨今の体操競技ですので、難しい技術こそを見たいと考える方もいらっしゃることでしょう。その一方で、今の国際体操連盟(FIG)の女子体操における方向性は、「難しい技をやるだけの演技はダメ!」ということみたいです。この傾向は平均台と、そして特にゆかに関して非常に強いようです。その象徴とも言える今回のゆかのルール変更が、「アクロラインのあとに同じ対角線で次のアクロラインを行う」(*1)こと、そして、「演技が始まって直ちにタンブリングに入る」こと(*2)がそれぞれ0.1の減点と明記されたことでしょう。このルールが何を意味するのか?女子体操のゆかの演技をご覧になったことがある方はお分かりになるかと思いますが、日本の村上茉愛選手を含むほとんどのトップ選手が、上記1つ目のルールに抵触することになります。なぜなら、体力を使う宙返りなどのシリーズは、同じ対角線を往復して、演技の冒頭に2つ連続して組み込むケースが非常に多いからです(*3)。また、体操界唯一のI難度技を発表したカナダのVictoria Moors選手については両方ともアウトで、1つ目のルールに至っては2回減点されるということになりそうです(*4)。音楽に合わせて演技する女子のゆか。曲は単なるBGMではなく演技の大きな要素の一つとして採点されますので、新ルールを守ろうとする場合、宙返りのシリーズを終えるたびに、ゆかの隣の角に移動する動きが必要になります。その結果、振り付けの修正が必要になり、多くの選手が曲目変更まで余儀なくされることになるでしょう。上記のMoors選手はすでに0.3の減点でしょうから、曲は必ず変えると予想します。ルール変更を知り、現役の後輩に伝えたところ、その一人が「私、0.1捨てます」と即答していたのが思い出されます。審判への印象や、他の減点項目との兼ね合いなどもあるでしょうから、これが賢明な判断かどうかはシーズンが始まってから分かるのでしょうけれど、今日も苦悩している選手や関係者が数多くいるのではないかと想像します。0.1のために宙返りの方のクオリティが下がったら本末転倒でしょうし…。なぜこうした変更がなされたのか…?すでに書きましたが、「難しい技をやるだけの演技はダメ!」という、今の女子体操の方向性を示す一環でしょう。FIGが一昨年、各国に通達したものによれば、「バレエやミュージカルのような1分半のショーの中に『さりげなく』宙返りなどが入っているもの」というのが理想像のようです。昨年の女子の審判講習で若い受講生が多い中、過去の好事例としてベラ・チャスラフスカさん(前回の東京五輪チャンピオン)を引き合いに出したところ、ほとんどがその名前を知らず、講師の先生が名前をデカデカと黒板に板書していたのが忘れられません(笑)。現在のFIGのトップがその時代の人だからというのも影響しているでしょうけれど、高難度体操の時代に半世紀前の理想像を持ち込むことが妥当なのか…?過度な高難度化には違和感を覚えることもありますが、私も何とも言えません。ただ一つ考えさせられるのは、ルールの仕組みそのものにも影響しますが、体操競技で求められるべきなのは「感心」なのか「感動」なのか?ということのように思います。私の後輩で先日引退したばかりの子の話。入学したての頃は技だけそつなくやっているような印象だった選手が、いつ頃からか、表現力や芸術性が見違えるほど上達したケースがあります。どうやってそうなったか聞いたところ、「(審判だけでなく)客席まで引き込んでやろうと思ってやってる」との答えが返ってきたのを忘れることはありません。
4種目で50点くらいは出す子でしたから、高難度技と無縁な話をしているのではありません。ただ、ケガの影響などもあり、トップクラスの技を入れられないこともあったのは事実。そうした中、自分より高いDスコアを持つ選手も数多く出場する大会で、ゆかで優勝したのを見た時には、女子の体操における芸術性の存在感の大きさを実感させられました。また、高難度技で「感心」させることの他に、豊かな表現力などで「感動」を与える演技というものの存在を再認識させられた瞬間でもありました。Dスコア(難度点=難しさ)とEスコア(演技点=出来栄え)の兼ね合いもそうですが、実に難しいバランスだと思います。
0.1という小さな減点項目の追加が、今の女子体操をどう変化させて行くのか?体操競技の発展や、ファンを魅了することを考えた時、どういう方向性が望ましいのか?2013年の改定の時も、みんなが同じようにしてルールをかいくぐろうとして、シーズン途中にさらに変更が加えられたこともありました。今年は選手や関係者はどう対応するのか?それによって体操競技がどう変化していくのか?ぜひ注目して頂きたいと思います。
(*1)(*2) 下記サイトのリンクから引用
2013体操競技女子採点規則修正の通知 | 日本体操協会公式ブログ | スポーツナビ+
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/jpngym/article/2017
(*3) 2013年世界選手権での村上茉愛選手のゆかの演技
Mai Murakami (JPN) FX 2013 Antwerp Worlds EF - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=rtooIO3xYkE
(*4) 2013年世界選手権でのVictoria Moors選手 (CAN)のゆかの演技
Victoria Moors CAN FX Podium Training 2013 Worlds Antwerp - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=zW1C0bn2v5c
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