2014テレビ信州杯事前企画⑬ レインボーRG「驚異的地域浸透率の秘密」現在では新体操の先進県と言っても過言ではない長野だが、かつては「北信越のお荷物」と呼ばれていた時期もある。そこから、現在に至るまでには、牽引的な役割を果たしてきたクラブや学校がいくつかある。古くは伊那弥生が丘高校、現在は、伊那西高校。また、ポーラ☆スターや舞エンジェルス、Wingまつもとなどだが、それらのクラブには、競技成績では及ばないクラブでも、長野県の新体操クラブは、総じて会員数が多く、活気がある。なかでも、その練習のあまりの人口密度の高さに度肝を抜かれたのが、諏訪・岡谷地区に拠点をおくレインボーRGだ。レインボーRGは、前述した長野県の牽引役となってきたクラブの中に名前は入れていないが、近年の「強い長野の新体操」を下支えする役割を果たしてきたクラブだ。現在、日本女子体育大学の矢崎ほの香、伊那西高校の三澤奈々、笠原鈴花、折井里帆。高校、そして大学でも活躍している彼女達は、ジュニア時代は、レインボーRGの所属だった。しかし、高校からはレインボーを離れ、高校の部活で新体操を究める道を選択している。諏訪から伊那は、広い長野県の中ではまだしも近いほうではあるが、通うとなると大変な労力がかかる。それでも、彼女達は部活での新体操を選び、親や学校もそれを支えている。そして、そのサポートに応えるだけの活躍をしてきた。そんな選手達をたて続けに輩出したクラブは、どんな雰囲気で練習しているんだろう? そんな興味もあってレインボーRGの練習会場に向かった。体育館というよりも、コミュニティーセンターの体育室のようなところで、一番年齢が低い子ども達の練習が始まろうとしていたが、まあ、その人数の多いこと!そして、子ども達が思い思いのカラフルな格好をしていること!元気と活気に満ち溢れていること!そして、親御さん達が子ども達を送り届けた後も、楽しそうに交流していること、など驚くばかりだった。いざ練習が始まっても、なにしろ未就学児も多い。良くも悪くも「幼稚園状態」だが、メインで指導されているレインボーRG代表の水谷悦子先生はじつに寛容だ。たしかに騒々しいくらいに賑やかな練習ぶりだが、それは子ども達がその時間が楽しくて仕方ないから。それはわかる。言うこときかない子なんていない。みんな、我先に先生に言われたとおりに動こうとしているし、できないことはできるようになろうと一生懸命だ。ご自身も2人の男の子を育てた経験のある水谷先生には、「子どもってこんなもの」と分かっているのだ、と感じた。もちろん、それは子育て経験があれば誰でもが至ることのできる境地ではない。分かってはいても、イライラもするし、カッとなることもある。それが、普通だし、水谷先生にもそんな時もあるだろうとも想像はできる。それにしても、だ。この人数のちびっこ達が、この狭い空間で、口々に「先生、先生、あのねー」と声をあげ、言葉にならない歓声、嬌声、笑い声、ときには悲鳴? をあげるのだ。物理的には間違いなく「うるさい」はずだ。しかし、水谷先生はそれを苦にしているようには見えない。楽しんでいるようにすら見える。そして、気づいた。これだけの人数がいても、先生の目には一人一人がよく見えているのだな、と。まとまってしまえばうるさいくらいの声も、それぞれは違う思いや表情で発している声なのだ。どんなにたくさんの子どもを相手にしていても、一人一人が違っていることを忘れずにいられれば、受容的になれるのだ。ある意味、指導する側が「身の程をわきまえている」ということもできる。子どもが自分の思い通りになんてなるわけがない、思い通りにしようなんて考えるのは不遜である、と。分かっているのではないか。我が子を育てるときもそうだが、結局、子どもは育つようにしか育たない。そして、それでもなんとかなる。どう育ったとしても、かわいいと思える。それが、我が子であり、教え子なんじゃないか。「もっと、こうあってほしかった」というこちらの勝手な思いは、ぐっと飲み込んで、その子なりの成長や、その子なりの到達点を認めること。それが、未来のある子どもの傍らにいる大人(親や指導者)の役割なのだ。この日、レインボーRGでは、発表会作品の練習をしていた。これも驚いたのだが、こんなにたくさんの子どもがいるのに、発表会にはたいていの子がかなりたくさんの演目に出るのだという。つまり、指導者はそれだけ多くの曲を選び、演技を考え、衣装にも工夫を凝らし、演技を仕上げていかなければならない。レインボーほどの人数がいれば、それだけでもどんなにか大変だろう。それでも、複数の作品に出するのは、間違いなく「顧客満足(ここでは子どもと親達)」のためだ。せっかくの発表会だもの。子どもはたくさん出たいし、親もわが子の出番は多いほうが嬉しい。その思いに応えたいのだと思う。これだけの人数で演技をするとなると、完成度を高めるには時間がかかる。時には厳しい指導も必要になる。もちろん、本番が近づけば、この日よりはもっとピリピリした練習にもなるのだろう。でも、きっとここのクラブは、発表会で「より体裁良く見せるために」子ども達を怒鳴りつけてでも、上手にきちっと踊らせようとはしないんじゃないか。より上手に、破綻なく演技を遂行することよりも、子ども達が本番も練習も楽しくやれること、また次の発表会にも出たい! と思うことを大事にしている。おそらく、そうだ。一番ちびっこのクラスが終わって、次のクラスの練習を見て、それは確信に変わった。小学校中〜高学年だと思うが、はじめのちびっこクラスよりももっと人数が多い。つまり、それだけ継続率が高いということだ。選手を目指しているならともかく、週1〜2回のならいごととして、新体操をやっている子達は、学年が上がってくると、櫛の歯が欠けるように抜けていく。勉強も大変になり、ほかにもやりたいことが出てくるからだ。ところが、このクラブでは年齢が上がると、より増えている。たとえ、選手になって試合に出るわけではなくても、新体操をやりたい!続けたい!次の発表会に出たい!とこんなに多くの子どもに思わせることに成功しているのだ。 人数の多いクラブは活気はあるが、親は我が子が大勢の中の1人すぎないということに不満が出やすい。それなのに、これほど継続率が高いというのは、親にも満足度も高いと言えるだろう。水谷先生自身、2人の息子さんのならいごと(スポーツ)には、かなり情熱を傾けていたという話を、練習が始まる前に聞いたことを思い出した。そんな経験をしてきた先生だから、預ける親の側の気持ちがよくわかるんだろうな、とこの練習ぶりを見ていて思った。子ども達に対して受容的なのも、指導者にはそうあってほしいという思いを自分自身がしてきたからではないのか。練習の見学を終えて、先生に駅まで送ってもらう車の中で、どんな方法で会員募集をしてるのか聞いてみた。すると、「今はほとんどなにもしていない」という驚くべき答えが返ってきた。満足している会員が多いから、口コミで評判は広がり、ここまで地域に根付いてきた。それに尽きるのだそうだ。これは、簡単なようで難しい。スター選手を1人育てて、それで人集めするより、ずっと難しい、と思う。それでも、レインボーRGは、それをやり続けてきた。新体操というと、素質に恵まれた一部の子だけが選手として、手厚く指導され、そこに入らない子、入れない子は「その他大勢」という気持ちにさせらる。だから、だんだんつまらなくなり、辞めてしまう。そんなクラブは、まだ多い。しかし、そうではなくて、昔からあるバレエ教室のように、女の子達にとってキラキラした夢のある「ならいごと」としての新体操がここにはしっかり存在している。そして、その中から、強い意思や意欲をもった選手もちゃんと育ってきた。地域密着型クラブのひとつの理想の形がここにはある。
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