2013全日本社会人大会レポート① Re;make「Re;makeの奇跡」社会人大会男子団体の優勝は、アルフレッサ日建産業だった。昨年の社会人大会では、ややミスの目立つ演技だったアルフレッサだが、今年はかなり完成度も高く、全日本選手権への出場を決めた。そのアルフレッサに、果敢に挑んだのが「Re;make」という今年初参加のチームだったが、その顔ぶれは、ある意味「おなじみ」でありながら、少しばかり驚きの混じったものだった。昨年、一昨年と、全日本社会人大会で男子団体2位となり、ジャパン進出を果たしてきた「会・光RG」。今年は、エントリーしていなかったこのチームが母体となってできたのが、この「Re;make」だったのだ。会・光RGメンバーだった大原朗生、宮川健太郎、田邉浩仁、高柳盛隆。そこに、今年新たに加わったのは、花園大学OBの同免木亮介、久納直也だった。出身大学は、大原が国士舘、宮川、同免木、久納が花園。高校だと大原、宮川、高柳が光明相模原、田邉が会津工業。とにかく、寄せ集めのチームであることには間違いない。ちなみに年齢は、宮川→同免木→田邉→久納と1つずつ下がっていき、高柳は、さらに2つ下になる。そして、チームリーダーである大原は、宮川の2つ上だから、じつに年齢差7歳! 「会・光RGは、今年は出ません」と断言していた彼らだが、会・光ではなく新しいチームで、しっかり出場の準備を進めていたわけだ。それも、花大出身の強力な新メンバーを加えて。なんでも、「みんなをビックリさせたくて」出場することはギリギリまで内緒にしておこうと、メンバー間で約束していたらしく、私も、試技順が出場者の手元に届いたときに初めて、彼らのエントリーを知った。おかげで事前取材に行く時間もとれなかったが、まんまと驚かされ、そして、本番での演技を楽しみにしていた。そして、結論から言えば、彼らの演技は、まったく期待を裏切らないものだった。いや期待以上のものを見せてくれた。想像するだけでも、決して十分な練習時間がとれているとは思えない。週1回が限界だろうし、それも6人そろうことはめったになかったのではないかと思う。宮川、同免木、久納は、新体操とは関わりのない職に就いているし、田邉は、舞台やライブなど精力的にフリーで活動している。高柳は大学生、大原も毎日のように新体操のレッスンをもっている。そんなメンバーで、男子新体操の団体演技を、試合に出られるレベルにまで仕上げることはどれほど困難だったろうと思う。しかし、そこは、やはりそれぞれが積み重ねてきた経験、そして、「社会人の寄せ集めチームでも、ここまでできる! ということを見せたい」という熱い思いでクリアし、大会1日目の公式練習で見たときも、彼らのチームは、かなりいい仕上がりを見せていた。おまけに、個人前半種目では、チームリーダーの大原が、暫定5位につける快進撃を見せ、応援もおおいに盛り上がり、チームの雰囲気は最高潮だった。昨年の社会人大会では、実施ではアルフレッサを凌ごうかというほどの完成度を見せた会・光RGだ。今年はさらにその上にいけるのでは? そんな期待をもたせる練習ぶりであり、雰囲気の良さだった。
2013年10月27日。
Re;makeの団体演技は、全日本社会人大会男子の部の最後に行われた。直前に演技を行ったアルフレッサは、倒立でやや乱れはあったものの、昨年に比べると格段によい出来で貫録を見せ、18.325をマークしていた。しかし、Re;makeの演技も、アルフレッサに勝るとも劣らない素晴らしいものだった。とくに、演技冒頭の花大らしい、独創的な動きは同調性も高く、一気に観客の気持を惹きつけた。胸後反、バランスもきっちり決まり、田邉の2回宙返りを皮切りに乱れうつ第1タンブリングも迫力十分だった。が、まず、ここで同免木が肉離れを起こしてしまう。演技後に聞くまではわからなかった。そのくらい彼は、何ごともなかったかのように演技を続行したが、じつは、彼らは、演技序盤からそんなアクシデントに見舞われていたのだ。その直後には、演技最大の見せ場。大原がフロア後方に向かって開脚ジャンプで高く跳び、それと交差する形でフロア後方から前に向かって宮川がタイムを回るというスリリングな組み技だが、それも見事に決まる。こんな技、週1回しか練習できないチームがやってしまうというのが信じられない。続いて体回旋、わずかに2人動いたか?に見えた鹿倒立。しかし、演技全体の印象を損ねるようなミスはまだない。そして、第2タンブリング。とくに問題なく決まったように見えたが、この着地で、後方から斜め前に向かってタンブリングしてきた大原が脚を傷めた。それも、かなりの重症だった。演技後に本人から聞いた話では、「動きを止めてしまうと、膝の位置が普通じゃないことがわかって気持ち悪かった」という。今大会はマットにスプリングが入っていなかったため、どうしてもタンブリングに高さが出ない。そんな条件のもとで、大原にとっては、この日も個人2種目を演じたあとに迎えた団体演技。かなり疲労がたまっていただろう脚の蹴りには十分な力がなかったのかもしれない。高さが足りなかったため、ひねりきれず着地でひざをねじるような形になってしまったのだ。しかし。彼はそのまま演技を続けた。その場で演技を見ているときには、おそらく誰も彼が2タンでそれほどの怪我を負ったことに気づかなかったのではないかと思う。もちろん、私も気づかなかった。2タンのあとには、斜前屈、上下肢運動と、膝に痛みがあれば、かなり苛酷な動きも入っていたが、それもちゃんとやり通した。そして、なんと、3バック+スワンも、遅れることすらなく、着地まで決めたのだ。あとになって、動画で確認してみれば、3バックの位置に移動するときにわずかに足をひきずったようにも見える。また、ラスタンに入る前、フロア左前に立って、呼吸を整える時間があったのだが、そのときの後ろ姿はかなりきつそうに見えた。そのときは、演技終盤だから疲れが出ているのだろう、と思って私は、心の中で「最後、頑張れ!」と声をかけたが、あれはただの疲れではなかったのだ。「死ぬほど痛かった」演技終了後、大原は、チームの仲間達にそう言ったそうだ。それでも、彼は、結局最後まで、どこも抜くところなく演技をやり通した。終わったとたんに、自力でフロアから出ることも難しい様子になり、仲間たちに抱えられるようにして、退場していたが、演技が終わるその瞬間までは、まったく膝を傷めているようには見えなかった。社会人大会には連続6回目の出場。一昨年からは個人、団体兼任での出場を果たしてきた大原朗生のことを、私は「鉄人」と呼び、記事を書いたこともあった。しかし、いくらなんでも。ここまで筋金入りの鉄人だとは思っていなかった。小柄な体で、決して体力的に恵まれているほうとは思えないのに、どこまでも強靭なその体と、そして精神のタフさには、感服するしかない。競技終了後、様子を聞きに行ったとき、彼は、「やらかしました」と苦笑いした。そして、「最後にみんなに迷惑かけちゃいました」と悔いていた。おそらく自分では、膝を傷めたあとの自分の演技は、もっとめちゃくちゃだっただろうと思っていたんじゃないかと思う。自分が途中で怪我したせいで、団体演技が全うできなかった。だから、チームに迷惑をかけた、と彼は思っていたのだろう。しかし、決してそんなことはなかった。膝を怪我してもなお、彼は、最後までチームの足を引っ張ることなく、チームリーダーにふさわしい頑張りを見せた。それは間違いない。大原は、左膝前十字靭帯断裂だった。運動をするためには、手術が必要。同免木の肉離れも、数日たっても腫れがひかず、かなりの重症。「おれたち、いつも週1回しか新体操してないのに、大会のときは3日間も新体操できたから、やっぱ体にきますね。」大原は、自嘲気味に笑っていたが、それだけ彼らは、新体操が好きで、この大会、この団体に懸ける思いが強かったのだろう。だから、無理もしてしまった。分別があるとは言えないかもしれないが、そんな向こうみずな新体操バカな熱さが、私には、かけがえのないものに思えてならない。続けていける環境もなかなか整わず、決して盛んとはいえない社会人の新体操だが、それを支えているのは彼らのような「新体操バカ」達なのだ。ある意味、誰よりも、計算ぬきに新体操を愛している。そんな彼らがいる限り、男子新体操はきっと大丈夫だ! そう思った。現に。今回、このチームに参加していた久納直也は、1年前のジャパンのあと、「新体操は引退します。思い残すことはない。」と清々しく宣言していたのに、またフロアに立っていた。そして、大会終了後、こう言ったのだ。「なんか、まだまだできそうです。ちょっと個人もやりたくなりました。」いったんは、「もう新体操はやらない」と決めていた久納の気持を変えるくらいの魅力がやはり新体操にはあるのだ。そして、彼がそう思えるようにしたのは、この「Re;make」というチームなのだ。怪我を負った選手が2人もいながら、あの演技をやり遂げたことも奇跡なら、久納の気持ちをそう変えさせたのも、彼らが起こした奇跡だ。社会人大会2位チームとして、ジャパンの出場権を得ている彼ら。満身創痍ではあるが、現時点で、「ジャパンには出ます」と明言している。同免木は言ったそうだ。「オレ達6人は、新体操という家に住む家族なのだ! 1人も欠けちゃいけない。」
11月23日、代々木第一体育館。彼らは、そこでどんな奇跡を見せてくれるのだろうか。 <撮影:清水綾子>※演技写真、集合写真のみ≪2013全日本社会人大会:Re:make団体動画≫
http://www.youtube.com/watch?v=HcaqeEcChoU&feature=c4-overview&list=UUf9wqSnX71M-HAIvPnqwXog※ジムラブに、「全日本社会人大会女子個人総合4~8位」をアップしました。http://gymlove.net/rgl/topics/report/2013/10/31/2013-114/
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