第5回関東新体操選手権男子団体準優勝「前橋工業高校(群馬県)」「雪辱」8月19、20日に神奈川県の光明学園相模原高校で関東選手権が行われた。この大会は、関東の高校生を対象した国体休止以前でいうところの「ミニ国体」的な大会で、例年8月中旬~後半に行われ、今年で5回目となる。近年の関東は、インターハイ優勝からも遠ざかっているが、国体休止後もこうして、地道に大会を続けていることにはおおいに意味があると思う。インターハイ後の大会だけに、チームによっては、この大会で、新メンバーがデビューしたり、または、3年生にとっては引退試合となる場合も多い。この試合の結果に何かがかかっているわけではないが、高校で、「男子新体操」を部活に選んで、精進してきた子ども達にとっては、やはりありがたい試合ではないかと思う。今年は、なんと甲府工業高校が3チームも出場していたり、千葉の袖ヶ浦高校も5人編成とはいえ、団体が復活していたり、見どころの多い大会だった。優勝したのは、インターハイでも4位と大健闘を見せた埼玉栄だったが、埼玉栄もインターハイとは2人も選手が入れ替わりながらも、ほぼ完ぺきな演技を見せ、チーム力を見せつけた。インターハイでは、ミスもあり、もうひとつ得点を伸ばしきれなかった光明相模原も、今回は、かなりいい実施で、目指している「美しい新体操」が明確に見える演技だった。しかし、なんと言っても、印象に残ったのが、準優勝となった前橋工業高校だ。試技順が最後だったこのチームは、練習のとき、待ち時間、すべてにおいて、気迫が違っていた。正直、関東選手権は、何かの出場権などもかかっていないため、比較的アットホームな雰囲気のなかで行われる試合だ。選手たちものびのびと楽しそうにやっている感じがある。ところが、前橋工業は、傍から見ていてもわかるくらいに、「本気」だった。その真摯な練習ぶりから、その強い思いや、インターハイから関東選手権までの日々をどう過ごしてきたのか、が伝わってくるようだった。インターハイの公式練習で、前橋工業の演技を見たときに、息をのんだ。このチームの演技を見るのは、5月の関東大会以来だったが、そのころとは見違えるくらいに、動きの美しさが増していたからだ。とくに演技冒頭の、まさに空気を動かすような振りが、あまりにもすばらしくて、声が出ないくらいに惹きこまれた。「これ、ノーミスだったら、かなりいくんじゃないか」私は本気でそう思っていた。しかし、残念ながらインターハイ本番の演技ではミスが出てしまった。それも、けっこう大きなミスで、17.625で12位に沈んでしまった。公式練習を見て期待が高まっていただけに、私も残念だったが、本人たちは、どれほど悔しかったことだろう。インターハイから、約2週間。彼らは、どんな思いで練習してきたのだろう。3年生が4人入ったこのメンバーでのおそらく最後の試合となる関東選手権。卒業していく3年生が、笑顔で「やってきてよかった」と終われるように。インターハイの雪辱を果たせるように。おそらく、彼らは、必死に練習してきた。この日の前橋工業の演技からは、そんな彼らの思いがほとばしるようだった。繊細な動きを見せる前橋工業の演技は、もともと美しい。だが、ただ動きが美しいだけでは、こんな風に人の心を動かす演技はできない。あらゆるものが、この演技に結実したんだろうと思う。こんな3分間を経験することができるから、やっぱり新体操はいい!新体操を見ることを止められない、改めてそう思った。そして、伝えることも。関東選手権は、それほど多くの観客を集める試合ではない。だから、この日の前橋工業の演技を生で見た人は、多くない。だけど、だからこそ、そこで彼らがどんなにすばらしかったか、彼らの演技がどれほど私の心を揺さぶったか、そういうことをできるだけ多くの人に伝えることを、止められないと思った。そこに光をあてること、それが自分のやりたいことなのだと。そんなことにも気づかせてもらえた。前橋工業の演技は、ほぼノーミスだった。インターハイで4位になった埼玉栄との差はわずかに0.1。やはり、しっかり通せていれば、それだけの評価を受けてもおかしくない演技であり、チームだったのだ。この1本がインターハイで出せていれば。そんな思いもあるかもしれない。だが、インターハイでうまくいかなかった後で、おそらく苦しんで苦しんで得た、今回のノーミス演技だったからこそ、価値がある。おそらくこのメンバーでの最後の演技を、まさに「笑って終われた」ことを、きっと彼らは永遠に忘れないだろう。そして、私がなによりも感動したのは、演技を終えた選手たちと、高橋監督が本当に労うように、一人一人としっかり握手を交わしていたことだった。インターハイ後、監督もきっとつらかったんだろう。誰よりも、監督が、「このまま終わらせたくない」と思っていたんだろう。そのために、もしかしたら心を鬼にして、かなり叱咤激励してきたんじゃないかな、と思った。そして、ときには自分のやり方を、「これでいいのか?」と悩んだこともあったんじゃないか。それもすべて。この日の演技と、彼らの笑顔で報われたのではないだろうか。練習のときから、本番の演技が終わるまでずっと険しい顔をしていた高橋監督の表情が、演技を終えてからやっと緩んだ。選手たち、とくに3年生たちに、「やってよかった」という思いで、高校での新体操を終えさせたいという気持ちが、ものすごく強かったんだろうな、とその力のこもった握手から感じた。こんな監督がいる前橋工業は、来年以降も、ますます期待できるチームになっていきそうだ。 <撮影:清水綾子>
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