「試練の夏 最後の夏」
7月初旬。今年こそ! 3度目の正直の「高校総体優勝」を目指しているだろう、恵庭南高校を訪ねた。この日の団体練習は、中心選手の森多悠愛が抜け、控えの選手が入っていた。しかし、とても正メンバーではない演技だと思えないほど、レベルが高い。それもそのはず、森多の代わりに入っていた選手も、北海道新体操クラブ恵庭(旧称:恵庭RG)時代に、全日本ジュニア優勝を経験している選手だ。1人くらいメンバーが入れ替わっても、チーム力が大きく損なわれることはない。その層の厚さが、今の恵庭南高校の最大の強みだ。「正メンバーではない」と聞いても、このメンバーでも十分「優勝候補」にふさわしい演技に見える。今の恵庭南高校団体メンバーの高3の5人(森多悠愛・五十嵐涼介・中村大雅・中村隆太・水戸舜也)は、恵庭RGが全日本ジュニアで初優勝したときからずっと一緒だ。今では、押しも押されぬ「ジュニアの強豪クラブ」となった北海道新体操クラブ恵庭の、黄金時代の始まりの世代と言っていい。全日本ジュニアを連覇したこのメンバーが、そっくりそのまま恵庭南高校に進学した2014年の高校総体。ジュニアから高校をまたいでの3連覇なるか? と期待されたこの年は3位だった。決して悪い演技ではなかった。しかし、この年は上位チームにほとんどミスのないハイレベルな戦いとなり、埼玉栄高校が優勝した。優勝した埼玉栄が19.100、恵庭南は18.950。
2015年3月の高校選抜で、恵庭南はついに優勝する。このときは、2位の青森山田と0.025差だったが振り切っての優勝を勝ち取った。これは。今年こそは、高校総体優勝! と意気の上がる勝利。しかし。
2015年高校総体。恵庭南はまたしても3位。優勝は青森山田高校だった。ミスがあったわけではない。素晴らしい演技だった。それでも、青森山田には0.125点及ばなかった。ジュニア時代からミスのない、引きどころのない実施で勝ってきた彼らだが、高校生になり、「ミスのない演技」だけでは勝ちきれないという経験が続いた。そして、2015年の全日本選手権では、それまでほとんど見た記憶のない鹿倒立でのミスが出た。
2016年3月の高校選抜でも、目立つところではないながらも審判にはしっかり引かれるだろうところでミスがあったという。連覇のかかっていた高校選抜は、またしても3位。いつ勝ってもおかしくない状態での2年間で、優勝は高校選抜の1回だけ。この結果に、彼らが満足していないだろうことは想像に難くない。キャプテンの五十嵐に話を聞いてみた。「目標はただひとつ。優勝です。 ジュニアから培ってきた徒手とタンブリングの綺麗さ、空中での姿勢とかひねり宙とか、足先を納めまできちんとしっかり意識して、実施力では負けない自信があります。」 そう胸を張る一方で、勝てない経験を重ねてきたせいだろうか。自信のなさも、わずかにのぞく。「自分たちの演技には、伝わるものない、と言われることもあって。。。そのへんが弱さなのかな、と。」 今の高校生はとてもレベルが上がっている。 今年の高校総体の団体もハイレベルな戦いになるだろうと予想できる。 そんな中にいて、「ほかのチームで構成とか、すごいな、面白いなと思うところも多くて。」という冷静な目をもつ五十嵐。 その冷静さゆえに、若干自信喪失になることもあるようだが、盲目的に「俺らが一番!」と思い込まないのは、決して悪いことではない。 ほかのチームのほうが勝っている部分もある。それを認めてこそ、自分たちの勝っているところで勝負できるのだ。 そもそも恵庭はそういうチームだったじゃないか。勝ち続けたジュニアのころからずっと。五十嵐は言う。「ともかく、全員で勝ちたい。高3の5人とか、団体の6人とか俺らだけで勝ってるんじゃない、BもCも、先生も、学校のやつとかも、親も近所の人も。今までもずっと、全員で戦ってきたと思うんです。だから、今度も全員で、勝ちたいです。」五十嵐の言葉を聞いて、5月の男子団体選手権に出場していた恵庭南高校チームのことを思い出した。たしかに彼らの演技はすごかった。順位は4位で、メダルには届かなかったが、得点16.475は、優勝した青森山田とも0.4点しか違わない。彼らは、恵庭南高校のBチームなのだ。「史上最強のBチーム」と呼ぶにふさわしいチームだった。それほどの選手たちが、控えに回り、仲間である正メンバーたちが高校総体で初の栄冠を勝ち取ることを信じ、応援しているのだ。五十嵐の言う「全員で勝ちたい」という言葉には、彼らの存在の分の重みがある。彼らが同じチームの選手として戦う、今年が最後の夏になる。最高の演技と最高の結果を勝ち取って、全日本ジュニアのときに見せていたあの最高の笑顔を表彰台の真ん中で見せてほしい。かつては新体操更新地区だった北海道のチームが、ここまで強くなれるんだ!そんなサクセスストーリーを見せてくれた彼らに、励まされた人も多い。希望をもらった人も多い。そんな人たちのためにも。きっと彼らは、やってくれる。
PHOTO& REPORT:Ayako SHIMIZU TEXT:Keiko SHIINA
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