リオデジャネイロ・オリンピックの体操競技、その代表最終選考会となる全日本体操種目別選手権が、6月4日(土)、5日(日)に行われる。 五輪代表は男女それぞれ5人。 男子はすでに内村航平、加藤凌平が代表に内定し、残りの3名が今大会の結果によって決定される。 女子は代表候補7人を選び、そこから五輪直前に代表5人を選ぶ。すでに寺本明日香、村上茉愛、杉原愛子が代表候補に内定し、残りの4名が今大会で決定される。 ……ということになっているが、ここは一ファンの妄想ブログだから、建前を吹っ飛ばして、ぶっちゃけよう。 男子も、女子も、五輪代表の座は実質あと1つだけ。この1つの枠をめぐる熾烈な戦いが今週末に繰り広げられる。これが実状だ。 男子は内村、加藤のほかに、白井健三と、田中佑典の2人が代表入りをほぼ確定させていると見ても差し支えない。 ゆかで世界ナンバーワンの得点を叩き出し、跳馬でもトップレベルの白井健三は、大きなアクシデントがない限り、五輪代表に入る。白井が漏れないような選考規定が、はじめから定められているからだ。 田中佑典も、鉄棒と平行棒という世界レベルの得意2種目を持ち、全日本とNHK杯で高得点をマークしてきた。NHK杯では加藤凌平と最後まで2位を争ったオールラウンダーでもある。海外の大舞台になると危なっかしいというメンタル面の不安はあるものの、こちらも代表入りはほぼ決まりの位置にいる。 とすると、内村、加藤、白井、田中弟で4つのイスが埋まり、残りはあと1つしかない。 では、最後の1人は誰が有力なのか。 種目ごとに五輪の演技者を想定して、どこが空いているのかを検証してみよう。リオ五輪の団体決勝では各種目3人ずつが演技する5-3-3のシステムがとられる。ゆか /内村、加藤、白井あん馬/内村、加藤、?つり輪/内村、田中、?跳馬 /内村、加藤、白井平行棒/内村、田中、(加藤)鉄棒 /内村、加藤、田中 クエスチョン・マークが「空いている席」だ。異論もあるだろうが、これが現時点で考えられる、もっとも可能性の高い人選だと思う。 ならば、残り1人に求められる役割ははっきりしている。あん馬とつり輪で高得点を出せるスペシャリスト。この2種目に強い選手が代表入りに近い。あるいはここに平行棒も加えるべきだろうか。 浮かび上がる有力候補は次の通り。・神本雄也……平行棒とつり輪が得意。鞍馬は苦手。NHK杯4位。・山室光史……つり輪と跳馬が得意。鞍馬は及第点。NHK杯7位。・萱和磨 ……鞍馬が超得意。NHK杯6位。 このほか、鞍馬の得意な亀山耕平、長谷川智将、つり輪の得意な武田一志なども候補に入るが、上記3人が頭ひとつ有利と見る。 悩ましい。じつに悩ましい。団体代表にもっとも必要な、鞍馬とつり輪の両方得意な選手が、微妙な具合に見当たらない。 つり輪のスペシャリストを優先して選べば、鞍馬に穴ができ、鞍馬のスペシャリストを優先すれば、つり輪の点が伸びなくなる。つり輪は中国が強いため、ここで一気に点差を付けられてしまう心配がある。 ロンドン五輪を教訓に「できれば内村に全種目頼るのではなく、鞍馬くらいは休ませてあげたい」なんてことを考え始めると、あと1人の選択はさらに難しくなる。 神本は全日本の平行棒で15.900の高得点を出しており、これは加藤凌平の15.250より0.65高い貢献になる。カギを握るのはつり輪で、この種目で山室を上回るようなら代表入りが見えてくるだろう。 山室は逆になんとしても得意のつり輪で神本を上回らないと(全日本でもNHK杯でも神本がわずかに上だった)、代表の座が遠のく。神本がNHK杯で出した15.350を超えることが、最低限の目標になる。 鞍馬はスペシャリストの多い種目だ。白井と田中佑典の鞍馬に不安があるだけに、これ1種目だけでも高得点を出せる選手は優遇される。 全日本は亀山が15.500で1位、NHK杯は萱が15.450で1位。総合力と安定度なら、昨年の世界選手権の種目別で銅メダルを取った萱が一歩リードする。 神本と山室のつり輪。萱と亀山の鞍馬。 最後の代表枠をめぐる、もっとも注目すべき種目はこれだ。異能の身体表現者たちによる、全身全霊の演技を見守ろう。 * * * 女子の代表も、残りの枠は実質1つしかないと考えていい。言い過ぎかも知れないが、そう放言してしまおう。 ゆかと跳馬で世界トップレベルの宮川紗江は、代表入りがほぼ堅い。女子版の白井健三のような存在で、代表選考の規定にも宮川を拾うためとしか思えない項目が添えられている。 NHK杯は足のケガの影響で振るわなかったが、全日本で跳馬15.550(1位)、ゆか14.650(2位)を出しているから、アクシデントがない限りは選ばれるだろう。 とすると、寺本明日香、村上茉愛、杉原愛子、宮川紗江の4人が決まり。実質、残りの1枠を五輪直前まで争う3人が、今大会で決定される。 内定している3選手を基準に、女子の団体決勝(5-3-3)の演技メンバーを種目ごとに想定してみよう。跳馬 /寺本、村上、宮川段違い/寺本、杉原、?平均台/寺本、杉原、?ゆか /村上、宮川(寺本) これも異論はあるだろうが、全日本やNHK杯の結果から可能性の高いメンバーを選んでみた。 こうすると「空いている席」が見えてくる。日本の弱点である平均台と、村上がやや苦手にする段違い平行棒。この2種目で高得点を出せる選手が代表の座に近い。宮川が入るという前提に立つと、得意種目が宮川とかぶる選手は厳しくなる。 有力候補は次の通り。・内山由綺……段違い平行棒の得点は、全日本2位、NHK杯1位。NHK杯総合4位。・笹田夏実……平均台の得点は、全日本2位、NHK杯2位。NHK杯総合5位。・河崎真理菜……段違い平行棒の得点は全日本1位。NHK杯総合6位。・美濃部ゆう、湯元さくら……平均台のスペシャリスト枠を狙う。 と、候補を挙げていく予定だったが、yahooのスポーツ欄にライターの椎名桂子さんによる「リオ五輪女子代表候補を懸けた最後の決戦~第70回全日本体操種目別選手権展望」という良記事を見つけたので方針変更。正しい展望はそちらを読んでください。 最有力は、段違い平行棒で6.2のDスコアを持ち、平均台も悪くない内山由綺だろう。 NHK杯は平均台の落下があり、代表内定の3位に届かなかった。段違い平行棒で力を発揮して、あとは平均台のミスが出なければ「2種目の貢献」という条件をクリアする。 笹田夏実には、オリンピック出場に懸ける親子二代のストーリーがある。 母は旧姓・加納弥生さん。全日本を3度制するなど女子体操の頂点に立ち、モスクワ五輪の代表にも選ばれながら、政治絡みで日本が出場をボイコット。五輪出場はかなわなかった。 娘・笹田夏実もロンドン五輪の選考会で、あと2種目を残した段階では代表圏内にいながら、平均台のミスが出て代表落ち。号泣する笹田と、その横でどうしていいかわからないような表情で戸惑う寺本明日香の残酷な対比が今も記憶に残る。 4年前に痛恨のミスをおかした平均台が、今は笹田夏実の生命線だ。Dスコアを6.0以上に上げれば平均台1種目の貢献で選考対象になるし、段違い平行棒でも本来の演技をすれば、2種目の貢献が認められる。親子二代の悲願に手が届くか。 もうひとり、ニューヒロイン候補を挙げておこう。全日本10位から、NHK杯7位に躍進した畠田瞳である。 2000年9月1日生まれの15歳。今年16歳になるので、リオ五輪の年齢制限もクリアする。半年ほど前までは「2020年東京五輪をめざすホープのひとり」というポジションだった選手だ。それがここ半年で、ぐんぐんと成長を示し、一気にリオ五輪を狙える位置にまで昇ってきた。 畠田瞳という名前に、体操ファンならピンとくるだろう。父は畠田好章さん。バルセロナ五輪(団体銅メダル)とアトランタ五輪の代表として、日本を引っ張ったあのイケメン選手の娘さんだ。お父さんはTBSの「SASUKE」に出たりしていたから、体操ファン以外の知名度も高い。お母さんも日体大の体操部出身という、生粋の体操サラブレッドである。 畠田瞳の得意種目は段違い平行棒。NHK杯は13.500だったが、先日のスロバキア国際では14.650(Dスコア6.0)という驚くような点数をマークしている。ちなみに内定3人の中で段違い平行棒の選考会最高点は、寺本が全日本で出した14.200である。 採点基準は大会によって微妙に違うから単純比較はできないが、もし今大会で同じ得点を出すようなら、それ一発で代表に近づくレベルの点数だ。
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